懐かしさ×新しさのカルチャーが再燃中
「スマホを片手に、レコードを選ぶ若者たち。」
そんな光景が、今や日常になりつつあります。
東京都内のレコードショップや古着店、純喫茶には、Z世代と呼ばれる若者たちが次々と訪れ、40年以上前の“昭和”という時代の空気を楽しんでいます。彼らのSNSには、ピンクやミントグリーンのクリームソーダ、キラキラの喫茶店の照明、古着でコーディネートされたファッションが並び、どこかノスタルジックな世界が広がっています。
今、なぜ昭和レトロが再燃しているのでしょうか?
その背景には、現代の社会や若者たちの心理、そしてメディアの影響が複雑に絡み合っています。
なぜ今、昭和レトロが注目されているのか?
昭和レトロが注目される理由のひとつは、「現代社会へのアンチテーゼ」としての役割です。
Z世代は、デジタルネイティブとして生まれ育ち、幼少期からインターネットやスマートフォンに囲まれてきました。そのため、膨大な情報に常にさらされ、SNSでは“比較”や“承認欲求”に振り回されがちです。そんな中、昭和のカルチャーには、今とは違う「ゆっくりとした時間」や「人との温かいつながり」が感じられます。
さらに、コロナ禍によって“おうち時間”が増え、自分の内面と向き合う時間を持つようになったことも影響しています。懐かしさを感じる映画や音楽、雑誌、ファッションに触れることで、どこか安心感を得ようとする心理が働いているのです。
また、SNSでの「映え」を意識した投稿も、昭和レトロ人気の原動力です。インスタグラムやTikTokには、昭和の純喫茶やレトロな看板、フィルムカメラで撮影された柔らかい雰囲気の写真が溢れています。現代にはない色味や素材感が逆に「新しく見える」という逆転現象が、若者たちを引き寄せています。
具体的なトレンド例と人気の背景
純喫茶とレトロ喫茶文化
「サテン(喫茶店のこと)でモーニングを食べてきた」という投稿に、ハッシュタグで「#昭和レトロ」「#純喫茶巡り」などが添えられる。名古屋、大阪、東京をはじめとする都市部では、昭和から続く純喫茶が再注目され、若者たちの“隠れ家”となっています。
たとえば、赤いビロードの椅子、ステンドグラス風の窓、昭和の歌謡曲が流れる空間。そこでいただくクリームソーダやホットケーキは、まるで映画の中のよう。Z世代にとっては非日常でありながら、どこか“安心できる居場所”となっています。
音楽とレコードのリバイバル
音楽の面では、昭和歌謡の人気が再燃しています。山口百恵、松田聖子、薬師丸ひろ子、中森明菜など、1970〜80年代に一世を風靡したアーティストの楽曲が、今また若者たちの間で聞かれ始めているのです。Spotifyでは「昭和レトロプレイリスト」が高評価を集め、TikTokでは昭和の楽曲をBGMに使った動画が何百万回と再生されています。
アナログレコードも「音が柔らかくて温かい」と評価され、中古のレコードプレイヤーがバカ売れしているという話も。昭和音楽の持つ“湿度”や“切なさ”が、現代の心に静かに響いているのかもしれません。
ファッションや雑貨にも波及
ファッションの世界でも、昭和のテイストを現代風にアレンジしたスタイルが人気です。古着屋ではポリシャツやサスペンダー、昭和柄のワンピースなどが注目され、個性的な着こなしが若者たちに支持されています。
また、駄菓子屋やレトロ雑貨店、昭和の家電を模したガチャガチャなど、日常の中に“ちょっとだけ昭和”を取り入れる動きも広がっています。
なぜZ世代に刺さるのか?
Z世代にとって、昭和は“知っているようで知らない”時代。
親や祖父母の話を通して断片的に聞いた思い出が、今の自分たちの世界で実際に体験できる――それが大きな魅力になっています。
また、現代は「何でもデジタル」「何でも合理的」である一方、昭和には“不便だけど心が温かい”暮らしや文化が残っていました。そこに“自分らしさ”や“他人と違う個性”を見出すことができるのです。
そしてもう一つ、昭和カルチャーは“家族との共通言語”になり得る点でも、Z世代の心を掴んでいます。レコードの話、駄菓子屋の思い出、昔のテレビ番組――そんな話題が、世代を超えて会話を生み出すきっかけとなっているのです。
今後の展望とまとめ
昭和レトロブームは一過性の流行にとどまらず、平成レトロ、さらには2000年代カルチャーへと連鎖していく兆しがあります。ポケベルやプリクラ、VHSビデオなど、Z世代が「ギリギリ知らない」アイテムが再評価されつつあります。
これからは、昭和を単なる“懐かしさ”として消費するのではなく、“文化として保存し、次世代に継ぐ”という姿勢も求められるかもしれません。昭和レトロは、ノスタルジーを超えて、新たな価値を生み出す創造の場になろうとしているのです。
最後に――
時代が変わっても、人は「自分を見つめ直せる場所」を求めるもの。昭和の空気は、そのヒントを静かに教えてくれているのかもしれません。
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